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今月のエッセイ

『理科美コラム』上野郁代



 上野です。
東京の剥製店に10年弱勤めていましたが、8月で退職し、故郷の石川
県輪島市で独立開業することにしました。
独立を決めたのはコロナ禍以前のことだったので、ようやくといった気
持ちです。9月初めに引っ越したのでもう3ヶ月弱たちますが、工房を
一から好きなように組み立てることは(引っ越す前はとても楽しみにし
ていたのですが)私にとって苦手な作業だと分かりました。
大きな机の上に材料や道具が散らかり、あつらえた棚の中はなぜかスッ
キリしている謎の状況です。
以前のように狭いながらも初めから整理された工房のありがたさを感じ
ています。

 最近の剥製製作の近況として、哺乳類の剥製の芯(マネキン)製作に
使うウレタンがコロナの影響により不足したため、昔ながらの木毛(木
製の梱包材)をより頼りにするようになりました。元々私はネズミなど
の小型哺乳類は木毛、タヌキくらいの中型から〜大型哺乳類はウレタン
で作成していましたが、今は小型〜中型までは木毛で作成するようにし
ています。

 木毛で芯を作成するやり方は、自分の力で圧縮して固める必要がある
ので、大きくなればなるほど力が必要で疲れます。
ウレタンの場合はブロックから削り出すので力は入らず、筋肉の細かい
凹凸の再現もスムーズにできます。
木毛でもそういった造形はできますが、ウレタンの方が形を掴みやすい
気がします。
筋肉の流れが目立つ短毛の動物を作る場合はウレタンの方が良いと現時
点では考えています。
 小型の場合、ウレタンだと細い部分が折れやすく、木毛の柔軟さがと
ても便利です。ですがリスや大型のラットくらいならウレタンを使う人
も相当います。体を型取りしてウレタン原液を使って作るのも賢いやり
方です。
大型だと型取りするのも大変なのでまずしませんが、小型だとそれも容
易。が、私の場合は型取りに苦手意識があるのでやりません、、。
なんでも人それぞれの感覚がありますよね。
ウレタンはなるべく発泡倍率低めの密度がある物を使いますが、それよ
り強度が弱く、しかしその分安く、そして簡単に手に入るスタイロフォ
ームでジャッカルを作る名人を目撃したこともありますし、多分それぞ
れの経験値と好みでやり方を選んでよいのです。私はウレタンブロック
を削る時に出る細かい粉も苦手なので、よほど大型でない限りは木毛に
頼っていきたい所存です。
 以上、取り留めなく書きましたが、全て体の芯の作成の話でした。
頭部の芯は全て型取りしてウレタン+粘土肉付けで作成しています。
また、台座に固定するための針金、棒ネジの仕様ですが、木毛の場合は
針金を芯に、そこに巻き付けるようにして成形、ウレタンの場合は成形
した後で針金を入れる部分を削り、納めてから再度ウレタン原液で蓋を
します。

 春先にサーバルキャットを作りまして、これは木毛で行いました。
 恥ずかしい点ばかりですが、剥製の作りの参考にはなると思います。

この後首の肉付けをもう少し行ったはず。顔の筋肉は表情がわかるほ
ど造形した方が良い。この写真は瞼がないですね。

足の指先や耳についても色々ありますが、今後の私に期待ということ
でここでは省略。
木毛芯はウレタン芯と比べるとどうしても重くなります。
 ちなみに、芯の作成に4日前後、成形は2日(大まかに1日、首元
や表情の直しに1日)だったと記憶しています。皮はしっかりなめして
あればあまり慌てずに作業して問題ありません。当時の勤務時間は9
時ー18時だったので夜は家に帰っていますし、昼寝もしてます。
 サーバルは大切に飼われていた個体で、もう少し柔らかく懐っこい
表情の子でした。お任せくださったお客様に心より感謝申し上げます。
 今回のコラムが誰かの剥製作りの一助になれば幸いです。
日本だと色々大変だけど頑張りましょう。
私もinstagramで情報発信してくださる世界の凄腕剥製師さんたちを眺
めながら頑張ります。