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今月のエッセイ

『しくみをつたえる 幼児絵本の制作』スズキサトル




今回は僕がシリーズで制作している幼児向けのりもの絵本「なんにはこんでるの?」について少し書きたいと思います。

図鑑に興味を持ち始める前の2,3歳児を対象に働く車の「しくみ」に興味を待ってもらい親と一緒に楽しく学べるのがコンセプトの絵本です。
まず、この年齢層の子供たちには緻密な描写の絵はまだ理解するには難しく、伝えたい情報量を極力セーブして簡潔にする必要があります。
ただ、あまりにシンプルになり過ぎてしまうと面白みがない絵になってしまうのでそのあたりのさじ加減は大変難しいところかもしれません。

もちろん例外もありますが、基本的に必要以上に情報量が多い絵は幼児には全体的な模様としてしか認識されず、 複雑な形や微妙な淡い色彩、遠近感、立体物を正確に認識するのもまだまだ難しいです。
もっとはっきりとした色合いや太い線を好みます。
幼児向けの絵本を制作するときは描き手として必ずこの点を踏まえて意識しなければならないと思います。

彼らはとても素直なので、自分がつまらないと思ったものは触りもしませんし、親がいくら進めても見向きもしません。
描き手としてはかなり手強い相手です。

「なにはこんでるの ?」の絵本の特徴として左ページをめくると乗り物の構造が見えるしかけ絵本形式になっています。
この「めくる」と言う行為は非常に重要でこの形式を取ることによって中を「開く」と言う行為を実際に体現することになります。
これは文字がまだ読めなくても感覚として文字と絵と一緒にものごとを同時に理解することに繋がります。

また男の子だけではなく、女の子も楽しめるのりもの絵本にしたいと思っていたので、そのあたりも意識しています。
例えば大きな乗り物の運転手は男性だけではなく女性も運転していたり、よく目にする日常の乗り物から普段あまり見ない特殊な乗り物が いつもどんな仕事をしているのか?自分たちとどんな関わりがあるのか?
それによって自分たちだけではなく世の中の多くの人が見えない部分で役に立ち助けれられているのか?
はたらく車を通して、乗り物の構造のしくみだけではなく、人との関わり合いの「しくみ」をまだ幼い頃に 全ては分からなくても感覚的に伝えられることを念頭に構成して考えています。

一言で言うと「人が人の夢をつなげていく」ことを絵本で表現したかったのだと思います。



•ほるぷ出版
•「なにはこんでるの ?」 (2018/7/25)
•「こんどは なにはこんでるの ?」(2019/4/24)