今月のエッセイ
2013.11.5 『桃 花 鳥』関口猪一郎
桃 花 鳥
鴇・鴾・瑞鳥・豆木・紅鷺・稲追鳥・鎌鷺・ドウ・タウ・タオ・トオ・ダス・ハナクタ等々、
一種の鳥でこの様に多くの呼び名とあて
字を持つのは他にないのではと思う。
本年は伊勢の皇大神宮の式年遷宮祭に当り、20年ごとに千三百年間続けられて来た儀式であり、奉納する
神宝の一つ「須
賀利の御太刀」の柄の部分に朱鷺の羽根が朱の糸で結ばれて飾られるしきたりで、朱鷺の絶
滅の危機の時にこの羽根の確保
に苦労された時代もあったと伝えられている。
天然記念物・国際保護鳥としての純国産種は絶滅したが、国と研究者・飼育関係の方々のたゆまぬ努力に
より、中国より移
入された同種の朱鷺の繁殖が成功して、地元佐渡の人々の協力により、山野に放鳥され、
その華麗な飛翔を目にする機会を
カメラやTV技術の発展によってTV映像、新聞、出版等による報道により、
幻の鳥でなく今日では「朱鷺」の名のみか、その姿
形や色彩、生態を知る人々も多くなった。
故郷の小正月、1月14日~15日朝に農作物を荒らす害鳥を追う「鳥追い」の行事があった。
降り積もる雪の村内を子供達
が集まって、拍子木を打ちながら、古く伝えられた「鳥追い唄」を歌いながら
回る行事である。その歌詞の中に「ドウとサンギ、
スズメ、スワ鳥、皆んな立上がれホーイホーイ!!」
とある「ドウ」は朱鷺を表す地元名であるとの事を知ったのは三十年程前
に熱心な研究者の著書によって
である。
年長の児と共に何も考えず雪のチラツク夜空に声を張り上げた。
その伝統行事も過疎化になって子供が居らず取りやめになったと聞いた。
時代の移ろいにより、自然や人間社会の変化に
より伝統を守り続ける事の難しさを知った。
幼い頃に参加した思い出と記憶を作品にと思いながら未だ出来ていない。